平間君を主著者とする論文が出版されました。
Hirama, F., J. Urabe*, H. Doi, T. Kazama, T. Noguchi, T. H. Tappenbeck, I. Katano, M. Yamamichi, T. Yoshida, J. Elser.  (2022) Terrigenous subsidies in lakes support zooplankton production mainly via a green food chain and not the brown food chain. Frontiers in Ecology and Evolution doi: 10.3389/fevo.2022.956819

モンタナ州Lost Lakeに浮かべた隔離水界(エンクロージャー)でサンプリングする平間君

モンタナ州にあるLost Lakeという小さな湖で行った野外実験による研究で、モンタナ大学Flathead生物研究所と共同で実施しました。陸上起源の有機物は湖沼の生物生産にも重要な役割を果たしていることは、リンデマンの研究を契機に良く知られるようになりました。従来の解釈では、湖沼や河川に流入する落葉など陸上期限の有機物はエネルギー源(炭素源)として水圏生態系の生物生産を駆動すると考えられてきました。陸上の枯死物が水圏の微生物に直接あるいは間接的に取り込まれ、それらが動物プランクトン(や水生昆虫)を経て、魚類等の高次生物を涵養する、という考えです。これは腐食連鎖ですが、落葉など枯死物から始まる連鎖のため、落葉の色をイメージして「茶色の食物連鎖(Brown Food chain)」と比喩的に呼ぶことがあります。一方、湖の中で植物プランクトンが光合成により作り出した有機物から始まる食物連鎖は、比喩的には「緑の食物連鎖(Green Food chain)」になりますね。

湖沼の生物生産を支える緑の食物連鎖と茶色の食物連鎖。2つの連鎖は、微生物と植物プランクトンの双方を食べる動物プランクトンで合流し、それらが餌となって魚類などの高次生物の生活を支えている

落葉は炭素は豊富ですが、窒素やリンはあまり含まれていません。ところが、今回の実験で、落葉に含まれるリンは量としては少ないものの、水に浸かると容易に溶存物質として溶出することがわかりました。湖沼では植物プラクトンの成育に際してリンは最も不足する栄養素です。このため、落葉などの陸上有機物が湖沼に流入すると、微生物のエネルギー源(茶色の食物連鎖の起点)だけでなく、植物プランクトンの成長を促進する栄養源(緑の食物連鎖の起点)になっている可能性があります。そこで、落葉を湖に設置した隔離水界に投入し、茶色の「食物連鎖」と「緑の食物連鎖」のどちらが良く駆動するかを、遮光したり、二酸化炭素濃度や動物プランクトン生物量、水素・炭素安定同位体比などを測定して観察しました。その結果、Lost Lakeでは定常的には茶色の食物連鎖が生物生産の半分を占めていましたが、落葉を投入した場合には緑の食物連鎖が駆動し、生物生産の75%近くを占めました。陸上起源物質は湖沼生物群集のエネルギー源と考えられてきましたが、植物プラクトンの成長に不足しがちなリンの供給源としても、従来考えられていた以上に、重要であることがわかりました。湖沼における茶色と緑の食物連鎖に対する陸上起源有機物の影響は、その有機物の炭素:窒素:リン比(ストイキオメトリー)、特にリンの水中への溶出効率に大きく依存していると言えます。

こちらの書籍も参考になります。

この研究は、占部研の平間文也さん、野口拓水さん、風間健宏さん(現神戸大)の他、土居秀幸さん(京大)、吉田丈人さん(地球研・東大)、片野泉さん(奈良女大)、山道真人さん(クイーンズ大), Jim Elserさん (モンタナ大学)と共同で実施しました。