生物の死骸はエネルギーも栄養もたっぷりな格好の食物ですが、生態系の視点でみると、一時的にポツンと現れた島のような存在です。この島(死骸)を利用する生物達は、どのように群集を形成し、儚く消えていくのでしょうか。こんんな興味を、河本さんはイワシの死骸を干潟に埋め、そこに成立する微生物群集を追跡することで調べました。微生物進化機能開発分野の永田教授、加藤広海博士との共同研究です。その結果、死んだイワシを埋めると、周囲に生息する一部の細菌類が急激に増えることで特異的な群集(細菌叢)を形成し、それを目当てに、あるいは死骸周囲に出来るの貧酸素的な環境を好んで、普段周囲にはいない特異的な原生動物も増えることがわかりました。数週間もすると、何事もなかったように、特異的は群集は儚くも消えてなくなった、ということです。この実験期間中、埋めたイワシの1匹は、早々に盗まれました。足跡から推察すると、おそらくタヌキとのこと(河本談)。 細菌が死骸を分解して腐敗臭を出すのは、こういったタヌキに餌を盗まれないためという説があります。細菌はタヌキ(とかのスカベンジャー)と死骸をめぐって競争関係にあると。死骸は、ある種の生物にとってお宝なのは間違いないようです。
Kawamoto Y, Kato H, Nagata Y, Urabe J (2021) Microbial communities developing within bulk sediments under fish carcasses on a tidal flat. PLoS ONE 16(2): e0247220. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0247220